大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)817号 判決 1975年8月07日
原告
宮田初子
被告
小宮義雄
主文
一 被告は原告に対し金一四五万五四九八円およびうち金一三二万五四九八円に対する昭和四八年三月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告は原告に対し金三五一万円およびうち金三一一万円に対する昭和四八年三月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二請求原因
一 事故
原告はつぎの交通事故による傷害を被つた。
1 日時 昭和四八年三月五日午後一〇時四五分ころ
2 場所 泉南市岡田一八一一番地先路上
3 事故車 軽四輪貨物自動車
運転者 訴外滝本裕治
同乗者 原告
4 態様 事故車が道路わきの電柱に激突した
二 責任原因
運行供用者責任(自賠法三条)
被告は加害車を保有し、自己のため運行の用に供していた。
三 損害
1 傷害、治療経過等
(一) 傷害
脳挫傷、頭部、顔面、頸部挫滅創、全身打撲傷、両下腿挫創
(二) 治療経過
昭和四八年三月五日から昭和四八年八月六日まで入院、同月一六日迄通院。
(三) 後遺症
左下顎、左頸部に長さ一ないし二センチの瘢痕および両下腿に瘢痕を残す。
2 損害額
(一) 治療費 金七二万四〇三二円
前記入通院治療費として右金額を要した。
(二) 入院雑費 金四万六五〇〇円
前記一五五日間の入院に伴う雑費として、一日金三〇〇円の割合による右金額を要した。
(三) 入院付添費 金一四万三六〇〇円
職業付添人分一二万二〇〇〇円
家族付添分二万一六〇〇円
(四) 休業損害 金二五万円
原告は事故当時一か月間金四万円の収入を得ていたが、前記受傷により昭和四八年三月五日から昭和四八年八月六日まで休業を余儀なくされ、その間、給与および賞与合計金二五万円の収入を失つた。
(五) 慰藉料 金二五〇万円
本件事故の態様、原告の被つた傷害の部位・程度、治療の経過、期間、後遺障害の内容、程度、その他諸般の事情によれば、原告の慰藉料額は金二五〇万円とするのが相当である。
(六) 弁護士費用 金四〇万円
四 損害の填補
原告はつぎのとおり支払を受けた。
1 自賠保険から 金五〇万円
2 訴外滝本から 金五万円
五 結論
よつて、原告は被告に対し本件事故に基づく損害の賠償として、金三五一万円およびうち弁護士費用を除く金三一一万円に対する事故日の昭和四八年三月五日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三答弁
請求原因一項は認める。
同二項中、被告が事故車を所有することは認める。但し、以下の理由により本件事故発生の際には被告は自賠法三条に定める事故車の保有者に該らない。
すなわち、被告は従業員数名を雇い菓子卸業を営み、訴外滝本はその従業員であるが、同人は本件事故の前々日から欠勤し、被告の営業車である事故車を自宅に持帰つたままであつた。而して原告は同人と婚約関係にある極めて親しい間柄であるが、事故当日、右訴外人を見舞いその帰途にあたり、訴外滝本は無断で事故車を使用し原告を送る途中、本件事故が発生したのである。従つて、右事情下における事故車の運行は専ら原告および訴外滝本のために支配され、被告の支配は排除されていたのである。
仮に然らずとしても、右事情の下においては原告は自賠法三条にいう他人には該らない。
従つて被告は原告に対し同法三条の責任を負担しない。
又、仮に被告が原告に対し右責任を負担するとしても、原告の好意同乗者性は濃厚であるから公平の見地から原告の損害の五〇パーセント以上の相殺がなされるべきである。
同三項は争う。
同四項は認める。
理由
一 事故の発生
請求原因一項の事実は当事者間に争いがない。
二 責任原因
本件事故車が被告の所有であることは当事者間に争いのないところ、〔証拠略〕によると次の事実が認められる。
被告は訴外滝本他数名の従業員、ならびに本件事故車を含む合計六台の営業用自動車を擁し菓子卸業を営むものであるが、訴外滝本は事故前々日、事故車を運転して商品の配達途上、体の不調を訴え事故車に乗つて自宅へ帰り以後欠勤し、事故車を自ら保管していたところ、事故当日遊びに来た原告と歓談ののち、原告をその自宅へ送るため事故車に同乗させて走行中本件事故発生に至つた。
被告はその所有の営業用自動車は倉庫前の空地に、自動車の鍵は倉庫内に保管していた。事故当日、被告は訴外滝本が事故車を自宅へ持帰つているのを放置し、その保管を同訴外人に委ねていた。
又、被告は従業員が営業用自動車を私用に使うのは原則として禁じてはいたが、求めにより私用に使うことを許す場合もままあつた。
以上の事実が認められる。
右認定の事実によると、本件事故車は事故発生の際、被告の業務のために運行されていたのではなく、訴外滝本と原告の私的関係から両名の私用に供していたものであることは明らかであるが、被告の本件事故車を含む営業用自動車の従前からの管理の方法、使用方法に照すと、訴外滝本らが本件事故車を私用に供したことが被告の意に反するものとは認め難く、被告は本件事故発生当時なお本件事故車の運行を支配する関係にあつたものと認めるのが相当である。
又、原告は訴外滝本と親しい関係にあり、本件事故当時の事故車の運行が被告の業務の執行と何ら関係のないことを知つていたことは明らかであるが、このことをもつて原告が本件事故当時、事故車の運行を支配していたものとは到底認め難く、右の理由で被告に運行供用者責任が認められる以上、原告が自賠法三条にいう他人に該らないものと解することはできず、又、原告の損害額全部を減額する理由にもならない。
よつて、被告は自賠法三条により本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。
三 損害
1 傷害、治療経過等
〔証拠略〕により請求原因三項1の事実を認める。
2 損害額
(一) 治療費 金七二万四〇三二円
〔証拠略〕によれば、前認定治療のための費用として右の金額を要したことが認められる。
(二) 入院雑費 金四万六五〇〇円
経験則によれば、原告の前認定一五五日間の入院に伴う雑費として、一日金三〇〇円の割合による右金額を要したことが認められる。
(三) 入院付添費 金五万四九六六円
〔証拠略〕に原告受傷の内容に照すと、原告は前認定入院中の昭和四八年三月五日から同年四月七日まで付添看護を要したものと認められるところ、経験則によると、三月五日から二一日までの一七日間、一日金一二〇〇円の割合による付添看護費用相当の損害を被り、三月二二日から四月七日まで家政婦を雇い一日金二〇三三円の支払をなしたものと認められる。
(四) 休業損害 金二五万円
〔証拠略〕によれば、原告は事故当時、二二才で、クリーニング店に勤務して一か月平均金四万円(夏期ボーナス金五万円)の収入を得ていた、前認定受傷により事故日から五か月間休業を余儀なくされ、その間金二五万円の収入を失つたことが認められる。
(五) 慰藉料 金八〇万円
本件事故の態様、原告同乗の経緯、受傷の内容、治療の経過、後遺障害の部位、程度を併せ考えると、原告の本件受傷による慰藉料額は金八〇万円とするのが相当である。
四 損害の填補
請求原因四項の事実は当事者間に争いがない。
よつて、原告の前記損害額から右填補分を差引くと、残損害額は、金一三二万五四九八円となる。
五 弁護士費用
本件事案の内容、審理経過、本訴請求額および認容額等に照らすと、原告が被告に対し賠償を求め得る弁護士費用の額は、金一三万円とするのが相当であると認められる。
六 結論
よつて、被告は原告に対し金一四五万五四九八円およびうち弁護士費用を除く金一三二万五四九八円に対する事故日の昭和四八年三月五日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 蒲原範明)